- 韓国版『ドクターX』の5・18描写を巡り、国会に放送中止請願が提出
- 医療ドラマへの政治描写挿入に批判殺到も、制作側は強気姿勢を崩さず
- 高視聴率作が直面する、表現の自由と歴史認識の境界線を巡る論争の行方
【韓察日報】韓国SBSの金土ドラマ『ドクターX:白いマフィアの時代』が、劇中で5・18民主化運動の被害者を描いたことを受け、国会に放送中止を求める請願が提出される事態に発展している。医療をテーマにした作品に政治的要素を唐突に持ち込んだとの批判が上がる一方、制作責任者は屈しない姿勢を示した。週刊京郷などの報道によると、同作は高視聴率を記録するなかで、近年の映像作品をめぐる歴史・政治論争を再燃させている。
■放送中止求め国会請願提出 「政治的論争を呼ぶ事案」と主張
国会電子請願の「国民同意請願」によると、24日に投稿された「SBS『ドクターX』ドラマの放送中止に関する請願」は、翌25日までに公開前の賛同要件である100人を満たし、国会側が公開の可否についての検討に入った。一般賛同の受け付けは一時中断されており、結論が出るまでには最大7日を要する見込みだ。
請願者は、第6話に作品の本筋とは関係のない5・18関連の内容が登場し、多くの視聴者に不快感を与えたと主張した。同氏は「大枠では痛ましい歴史であるという点に異論はないものの、細部において与党『共に民主党』や野党『国民の力』をはじめ保守と革新で見解が分かれる政治的事案だ」と指摘した。その上で、医療ドラマで唐突に題材として用いられたことへの不信感をあらわにし、制作陣を国会に参考人として招致して制作過程を検証するとともに、放送倫理・審議機関を通じた審査の実施を求めている。
■46年間のトラウマ描く第6話 劇中の描写に賛否
問題視された第6話では、5・18民主化運動当時に頭部へ銃撃を受け、46年間にわたり重い後遺症に苦しんできたオ・サンボム(ハ・ソングァン)の悲劇が描かれた。
スポーツ京郷によると、劇中のオ・サンボムは46年前に光州で頭部に銃撃を受け、痙攣や発作、激しい頭痛、幻覚・幻聴に苦しめられてきた人物だ。遺体さえ見つかっていない兄への罪悪感に苛まれる内面も描かれた。医師のケ・スジョン(キム・ジウォン)が「何もしなければ、可能性など何もない」と説得し、成功率の低い危険な手術に踏み切る方針を固めた。しかし、オ・サンボムが病室を抜け出した際、当時の事件に関わった元大統領が急病で病院へヘリコプターで搬送されるシーンと重なり、過去のトラウマによるフラッシュバックが起きるという緊迫した場面が描かれた。
こうした展開に対し、視聴者掲示板やSNSでは「順調に進んでいたストーリーに突然5・18をねじ込んだ」「医療ドラマで銃弾を扱うからといって民主化運動と結びつけるのは不自然だ」といった、作品の政治的偏向性を非難する声が相次いだ。
■制作統括「恐れない」と強気 深まる歴史作品の論争
こうした反発に対し、制作側は強気の姿勢を崩していない。同作を手掛けるスタジオSのイ・オクギュ制作統括は24日、自身のSNSにドラマのポスターとともに「恐れない」とのメッセージを投稿し、毅然とした立場を表明した。ニールセン・コリアの集計によると、当該の第6話は全国世帯視聴率19.5%を記録し、高い関心を集めている。
作品をめぐる反発が強まるなか、スポーツ京郷は、歴史歪曲をめぐって激しい論争が巻き起こった映画『暗殺者(たち)』の事例を挙げ、歴史的事件を扱ったエンターテインメント作品が直面する課題に再び注目が集まっていると報じている。1974年の陸英修(ユク・ヨンス)夫人銃撃事件(文世光事件)の疑惑を追跡した同映画では、政界の一部や保守団体からの抗議デモが激化し、主演俳優のユ・ヘジンが警察に身辺保護を要請する事態にまで発展した経緯がある。今回の『ドクターX』をめぐる騒動も、表現の自由と歴史認識の境界をめぐる対立として、今後さらに議論を呼ぶ見込みだ。
【編集長の韓察眼】
歴史解釈をめぐる世論の対立を背景に、映画『暗殺者(たち)』と同様、創作物への反発が国会請願や公的審査要求へと飛び火した格好だ。海外作品のリメイクに際し事前の脚本確認は通例だが、物議を醸した今回の描写を権利元が許諾した経緯には疑問も残る。制作側の強気姿勢が波紋を広げるなか、表現・創作の自由をめぐる議論の行方を注視したい。

